「影」の心理学――なぜ善人が悪事を為すのか?』

ジェイムズ・ホリス[著]/神谷正光、青木聡[共訳]

1,890円(税込)

ISBN978-4-434-12887-5 C0011
「影」の心理学――なぜ善人が悪事を為すのか?

ユング心理学の中核概念のひとつである「影」とのつきあい方を丹念にまとめあげた快著


できることなら目を逸らしておきたい自分の一部、ユングはそれを「影」と呼んだ。「影」にはマイナスのイメージがつきまとうが、その存在を受け入れることで人生に幅と深みがもたらされる。

本書は、ユングが考案した「影(シャドウ)」という概念について包括的に解説する内容となっている。とりわけ個人的レベルの「影」だけでなく、社会、制度、近代、神学における「影」を取り上げている点は特筆に値する。ここまで幅広く「影」 について論じた本は他に見当たらない。本書を読めば、「影」という概念が個人の心を考える視点として優れているだけでなく、現代社会の抱える諸問題の深層をえぐり出す切り口としてきわめて有効であることが理解されるだろう。
端的に言えば、「影」とは生きられていない「私」である。「私」は親・夫・妻・会社員・教師・カウンセラー等々として、いわば「善人」として社会に適応するために、努力して「仮面(ペルソナ)」を作り上げていき、それとほぼ「同一化」して日常生活を営んでいく。一方、その過程で「私」に切り捨てられた自己の諸側面は、背後から「私」を追い回す「影」となってしまう。そして、「仮面」が「私」に張り付いて一面的な生き方や考え方に凝り固まってしまうとき、「影」は根本的な変化を求めて「私」に襲い掛かってくる。善人が不意に悪事を為してしまうのも、心の隅に追いやられていた「影」のせいである。まさに「魔が差した」としか言えない悔やまれる行為。そんな一瞬の衝動の背後に、「私」の意図とは別の論理で動く「影」の暗躍を感じ取ったことがあるのではないだろうか。が、たいていの場合、「私」は「影」を自分の一部として認めようとしない。それどころか、無意識のうちに「影」を不快な他者に投影して自分から遠ざけてしまうこともある。
しかし、ユングはこの「影」と「真摯に向き合う」ことを勧めている。なぜなら、「影」の目線で「私」を見つめ直すことによって、少しずつ「私」の変容が始まるからである。その取り組みが真摯であればあるほど、内面に生じた分裂を俯瞰し、かつ統合する新たな視点が育まれていき、やがてその影響は周囲にも波及していくに違いない。

◎本書の最後には、読者が実際に「影」と向き合うための簡単なワークが用意されている。
◎名著『影の現象学』(河合隼雄著 講談社学術文庫)とは別の角度から「影」に迫った稀有の論考。

世の中にはいわゆる自己啓発本があふれている。そうした本は迅速な変化を目指して月並みなプログラムを提供する。しかし、それらの多くは役に立たない。人間の心の複雑さを考慮に入れていないからだ。自己啓発本は、私たちの人生を動かしている力が意識の外側で働いているとは考えない。また、そうした本は、内面の対極的な動因の交流によって私たちに推進力が与えられていることを認めようとしない。私たちのある部分は別の部分が望む方向に進まない。私たちは自我意識によって事を為そうとするが、そのときに暗い「自己」がまったく正反対の仕方で作用するのだ。本書は、読者を自分自身や世界との心をかき乱す対話に招待したい。本書を読むと、心の複雑さは減るどころか、むしろ増えてしまうに違いない。しかし、自分や世界に対する理解は確実に深まるだろう。《本文「はしがき」より》

《本書の内容》
■ 「影」との遭遇
■ 魂の陰影 ◎ 「影」の現れ方
■ パウロの当惑 ◎ 「善を為す意志はあれど……」
■ 自分自身と出会う ◎ 個人的な「影」
■ パトス ◎ 日常生活に「影」が入り込むと……
■ 隠れた問題 ◎ 親密な関係性の「影」
■ 一に掛けることの…… ◎ 集合的な「影」
■ 通分された分母 ◎ 制度の「影」
■ 進歩の暗い辺縁 ◎ 近代主義の「影」
■ 暗い神性 ◎ 神の「影」
■ 輝く暗闇 ◎ プラス方向の「影」
■ 「影」のワーク ◎ 自己の闇の部分と出会う
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