創作と癒し――ヴァージニア・ウルフの体験過程心理療法的アプローチ』

村田 進[著]

定価(本体2,000円+税)

ISBN978-4-434-19484-9C0011
創作と癒し――ヴァージニア・ウルフの体験過程心理療法的アプローチ

“文学と心理学の接点”、すなわちヴァージニア・ウルフの主要作の精緻な読みとフォーカシング指向心理療法を含む体験過程理論の研究実践から導き出された“創作と癒し”の世界

本書は、作家兼臨床家の神谷美恵子が、V.ウルフの病蹟学的研究で、自らやり残したと述べている作品研究の領域に光を当てて行なった、心の回復過程についての研究である。

 『創作と癒し』はそこから名づけられている。また、その主題「闇の核心を求めて」には、心の闇に照らし出されるものとは一体何なのかという、ウルフが探求してやまなかった問題に、主にフォーカシング指向心理療法における“フェルトセンス”の解明を通して迫るという意図が込められている。
 本書は、C.ロジャーズのパーソンセンタード・アプローチからE.U.ジェンドリンのフォーカシング指向心理療法、または、体験過程療法論の観点からウルフの心の闇に光を当て、文学と心理学の接点から臨んだ新しい方法論からの質的研究であり、さらにそこから導き出された“創作と癒し”の世界を「発展研究 創作体験を中心に」としてまとめている。

序論 闇の核心を求めて

第1部 V.ウルフ『ダロウェイ夫人』を中心に
◎第1章 ヴァージニア・ウルフの創作と体験過程について──『ダロウェイ夫人』から『灯台へ』まで──
◎第2章『ダロウェイ夫人』概論── Mrs. Dalloway's Character Problem ──

第2部 V.ウルフ『灯台へ』を中心に
◎第3章 ヴァージニア・ウルフ『灯台へ』における過去志向について──解釈学的見方から──
◎第4章 文学と心理学の接点から──V.ウルフ『灯台へ』再考──

第3部 V.ウルフ『歳月』を中心に
◎第5章 『歳月』とウルフの体験様式について

第4部 発展研究 創作体験を中心に
◎第6章 「灯台へ」創作体験の面接への適用について
◎第7章 禅マンダラ画枠づけ創作体験法の開発とその心理療法的構造について
──体験過程から見た心理的回復過程の中心概念の研究──

結論 本論の目的・仮説・定義・方法と結果
資料編


団塊の世代の一人である作家津島佑子は、かつて、映画「ダロウェイ夫人」についての新聞の評に、英国のヴィクトリア時代の女性が男性を見るまなざしに何か温かいものを感じ、古き良き時代の「郷愁と共感」という題のエッセイを寄せています。それは、過ぎゆく昭和の世代の古き良き文化や人々をしのぶ彼女自身の温かいまなざしであり、わたしたちにも深い共感を呼ぶものでした。本書が、ウルフを通して、そのような古き良き時代を生きた人々へのエールや癒しとなり、また、これから新たな時代に生きる人々に世代を超えて光る一筋の価値と希望を見出すヒントになることを願っています。(著者)

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