体験過程心理療法――創作体験の成り立ち』

村田 進[著]

定価(本体2,000円+税)

ISBN978-4-434-21010-5 C0011

体験過程心理療法――創作体験の成り立ち

『創作と癒し──ヴァージニア・ウルフの体験過程心理療法的アプローチ──』(2014)の連作

カール・ロジャーズの研究家であり、ロジャーズから「私の友人」と呼ばれて親しく交流を続けていた畠瀬 稔先生は、先般、惜しくも急逝されたが、本書は先生への哀悼の意をこめてつくられたものである。

先生は、ロジャーズが提唱し世界に広めたPCAすなわちパーソンセンタード(人間中心の)アプローチの考えを実現するために、翻訳を通してその精神を日本に紹介しただけではなく、自ら米ラフォイアのロジャーズのもとで学び、当時ロジャーズが創始し、精力的に世界に広めていたエンカウンターグループ運動を日本に導入し広めた。
本書は、先生が大学院のロジャーズのもとで経験した「授業とエンカウンターグループが一体化した授業」(ロジャーズ&フライバーグ、2006、『学習する自由・第3版』、畠瀬&村田訳、コスモス・ライブラリー)に感銘を受け、それを日本でも実現しようとして大学院で実践された授業を、今度は著者自らが体験し、その“恵まれた学習の瞬間”から得た成果を世に問うものである。

本論第1部では、第2作(2014)で得た心理療法の中心概念(ふっきれる)を裏付けるために、著者が修士論文で取り上げたイニシャル・ケースに遡り、創作体験における回復過程と中心過程を検証した。そして、そこから、ウルフや畠瀬の回復・成長モデルや学校臨床の様々なケースに見られるふっきれる中心過程の有機的プロセスをグラフにして仮説モデルとして提起した。それによって、自己の中心過程の有機的な仕組みは、融通無碍な動きをもった中心軸として、また、ゆっくりとなめらかに個人やグループに作用する推進力としても機能することがケースから明かされた。すなわち、自己の中心過程に内包する有機的作用は、人生の外延に機微・機序・機縁となって表われ、かつ相互作用のもとに自己が世界の中で機能的な人間になることを指向していることが見出された。

本論第2部は、19世紀末のヴィクトリア朝時代にイギリスのロンドンに生まれたヴァージニア・ウルフの創作体験を取り上げた。彼女は、文学の上でリアリティを追究し、畢竟、自分になり人間になることを目指した。本書は、彼女の代表作である『灯台へ』(1927)を取り上げて、作家が自分を見つめ、自己の闇の核心にある真実に触れてありのままに生きようとしたことを、ナレーターとして登場人物に寄せて自分独自の文体で書きながら、家族や人間性によりどころを求めたウルフ自身の創作体験の中に見出した。

序論 追悼 畠瀬 稔先生の道程


第1部 心理的成長と中心過程について

● 学校臨床と中心過程
● 体験過程尺度から見た心因性アトピー性皮膚炎(AD)の青年の回復過程における間と推進のプロセス
● ADの3つの研究の比較・検討 ● 先行研究 ● 学校臨床事例研究


第2部 V.ウルフ『灯台へ』と創作体験

● V・ウルフ『灯台へ』再考(英文)
● 『灯台へ』創作体験による心理的変化の評価について
● 終章 マトリョーシカと癒しの時間


結論 本論の目的・仮説・定義・方法および基本計画と結果

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