コラム〜編集日記〜

第23回


いかがお過ごしでしょうか? 前回は、『滝行−大自然の中、新しい自分と出会う』(佐藤美知子著)の刊行を準備中とお知らせいたしましたが、おかげさまで6月1日に全国配本いたしました。これから夏に向けての滝行シーズンに間に合わせることができてほっとしております。


ところで、サブタイトルにある「新しい自分に出会う」とはどういう意味なのでしょう? それについては長谷川智先生の「あとがき」の一節に優れた解説がありますので、以下にご紹介しておきます。


ともすれば、迷信・非科学的なものとして捉えられがちな滝行や宗教的荒行にも科学のメスが入れられ、新たに社会的に認知されるようになってきた。


本書の講義の行われた一九九〇年代はある種の脳ブームが起きていた。
一九九五年、NHKの番組で「驚異の小宇宙・人体II 脳と心」が放送された。
(佐藤先生は)脳や人類の進化・宇宙に関して常に深い関心をもっておられ、最新情報との関係で講義されることもしばしばあった。
番組最終回「果てしなき小宇宙・無意識と創造性」で、内容は次のようなものだった。
進化の過程で急激に肥大化したヒトの大脳は想像力を発達させた。脳はその膨大な情報量に対して取捨選択する抑制メカニズムをもつようになった。この「安定化装置」をもつことにより、あやういバランスを保っている。


苦行の苦痛に耐えたり、創作活動に没頭しているときの脳のメカニズムを推論すると、人が精神的・身体的苦痛に直面したとき、ドーパミンなどの脳内物質が大量に放出される。ドーパミンは脳の安定化装置を緩める働きをする。脳の抑制メカニズムが外れることは、普段は自覚し得ない内外の情報を一挙大量に自覚するきっかけとなる。そのとき古い脳では快が、新しい脳では精神の高揚が起き、至福感に包まれる。新しい自分に出会うことになる。


番組に対し佐藤先生はこう言われた。


「『新しい自分にめぐり会う』これがみんなの課題でしょう。
何か悩みがあったならば身体に負荷をかけていると、いろいろ自分を守ろうとしてドーパミンがたくさん出てくる。
そして新しい自分にめぐり会う。
だからこの世で何か、自分が困っていること、自分が感じていること、それを問題視しなさい。
『カルマが出た』なんて言って逃げてないで、それを問題視して、よくよくつかんで考えてごらんなさい。
そうするとこういうふうにドーパミンが出る。新しい自分に出会う」


お亡くなりになった佐藤先生に「なんで今どき、滝行なのですか」と長谷川先生が尋ねたとき、佐藤先生は次のように答えたそうです。「早くいい意識の状態をつかんでほしいからよ。ぼんやりした意識のまま瞑想していたって、何年経ってもなんにもならないからです」


複雑な情報に囲まれた現代、私たちのほとんどは様々な雑念を仕入れ、かつ、時間に追われており、のんびり長時間、瞑想する時間などありません。そこで、佐藤先生の遺志を継いで長谷川先生と同志の皆さんが運営している「湧気行」では、滝行がすぐに結果の出ること、またその滝行でつかんだ体験が瞑想を深めるために大いに役に立つことに着目し、瞑想と滝行を有機的に組み合わせているようです。


滝行はこれから着実に現代人の精神的健康増進の一助として普及していくことでしょう。なお、「湧気行」については下記ホームページをご参照ください。


http://tukimi.ne.jp/nani.htm


《刊行予定》


なお、小社では『フォーカシングとともに(3)−心理療法・瞑想・奇跡』(ニール・フリードマン著/日笠摩子訳)の刊行準備中です(7月刊行予定)。これで、(1)体験過程との出会い」および(2)「フォーカシングと心理療法」と合わせて完結することになります。瞑想についての話にはクリシュナムルティもちょっと登場します。


また『自己変容から世界変容へ−プロセスワークによる地域変革の試み』(ギャリー・ライス著/田所真生子訳/諸富祥彦監訳・解説)、『改訂版・フォーカシング入門マニュアル』(アン・ワイザー・コーネル著/大澤美枝子ほか訳)なども準備中です。


さらに、クリシュナムルティ関係書も準備中です。まず、"Letters to a Young Friend: Happy is the Man Who is Nothing"(『しなやかに生きるために−若い女性への手紙』)です。これは、元々はププル・ジャヤカール著『クリシュナムルティ伝』の第23章を構成していたものを、独立した単行本として出版したものです。収録された一連の手紙は、実はジャヤカールの妹のナンディーニに宛てられたもので、ある事情で心身ともに疲れていたとき、それを癒すかのようにクリシュナムルティが大いなる思いを込めて書き送ったものです。彼の他の著書にはない独特の味わいがあり、以前読んだときぜひ紹介したいと思っていたものです。手紙の背景を知ってもらうため、やや長い「解説」をつける予定です。


次は"What are You Doing with Your Life?"(邦題未定)です。これはいちおう若者向けに書かれてはいますが、クリシュナムルティの様々な講話や著書から多くのテーマに関する言葉を厳選した優れた「語録」でもあり、彼の深い洞察がびっしり詰め込まれています。邦訳は、『クリシュナムルティとは誰だったのか−その内面のミステリー』の共訳者の大野龍一さんが引き受けてくれ、現在作業中です。すでにクリシュナムルティのことをよく知っている読者にも、まだ知らない方々にとっても優れたガイドブックになるのではないかと推察しています。


最後は"Meeting Life: Writings and Talks on Finding Your Path without Retreating from Society"(邦題未定)で、伝記『目覚めの時代』『実践の時代』の著者メアリー・ルティエンスが編集した本です。内容はほぼこれまで未紹介のものばかりで、非常に資料価値の高いものです。


以上、近況について御報告させていただきました。今後ともよろしくお願いいたします。
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