コラム〜編集日記〜

第39回


10月も半ば近くになり、ようやく涼しい風が吹くようになりましたが、読者の皆様はいかがお過ごしでしょうか?

前回は昨年9月にアン・ワイザー・コネル著/大澤美枝子訳『すべてあるがままに――フォーカシング・ライフを生きる』を、また緊急出版として英和対訳の『ロジャーズのカウンセリング(個人セラピー)の実際』も、予定どおり8月末に刊行したことをお知らせしました。あっという間に1年が経ってしまいました! おかげさまで『ロジャーズ……』の方は好評で、最近第2刷を刊行しました。
ところで、前回、この『ロジャーズ……』の内容との関連で、次のように書きました。

最近、春秋社さんの広報誌「春秋」に「墓守り娘の嘆き」という連載が載っていますが、核家族化した現在のわが国の家族内で、母と娘が共依存的な雰囲気の中で出口の見えない陰湿なドラマを展開している様子が描かれています。人間関係というものがいかに厄介なものか、改めて痛感させられ、またそういったものに取り組んでいるカウンセラーや対人援助者の皆さんはさぞかし大変だろうと拝察しました。

この連載は単行本化され、かなり読まれているようです。実は今月中旬刊行予定の『こころの天気を感じてごらん――子どもと親と先生に贈るフォーカシングと「甘え」の本』でも、この「依存・甘え」の問題が正面から取り組まれています。著者は松江市在住のスクールカウンセラー、土江正司さんで、2000年より心身教育研究所・一心塾を開設し、フォーカシングや呼吸法や心身セラピーを行なっています。土江さんは、また、インド政府公認ヨーガ教師、浄土宗僧侶、楽健法師範、臨床心理士、フォーカシング・インスティチュート認定トレーナーでもあります。『すべてあるがままに』の訳者大澤さんとはフォーカシング仲間です。10月19日に淡路島で「フォーカサーの集い」という、100人規模のフォーカシング関係者の集まりがあり、そこで今回のご著書をお披露目されるとのことです。この本の「あとがき」で、土江さんは次のようにお書きになっています。

第二部の甘え論は相当な難産であった。眺めるだけで心の天気が晴れてくるという現象を、「甘え」という関係性の観点から解明したかったのである。
「人は甘えが満たされると心が晴れる」ということは早くからわかっていた。心の天気を感じることで心が晴れるのは、何かしら甘えが満たされる構造がそこにあるからに違いないと、論考を進めていったのである。「甘え」は日本人の精神構造に深く組み入れられている日常用語であり、そのまま「からだ言葉」である。精神分析用語が、まるでコンピュータ用語のように機械的な印象があるのに比べて、「甘え」には血が通っている。その意味で論考は難行ではあったが至福の旅路であった。この言葉に最初に着目された土居健郎先生に深く敬意を表したい。
「甘え」の概念が外国ではどのように受け止められるのか未知であるが、「甘え」は狭く見積もってもほ乳類に普遍的な欲求である。各文化圏においてこの普遍的欲求がどう処理されているかで、国柄、人柄というものがかなり決定されるのではないかと思う。
この論考により、甘えは二者の関係から始まり、続いて一対多の関係、そして最終的には内的な二者関係へと収まっていくことがわかった。言い換えれば、甘えは一生続くのである。外的な甘えが満たされないのであれば内的な甘えに切り換えてしのがなければならない。カウンセリングで目指すのはその過程の援助であるとはっきり言うことができる。

今回は『こころの天気を感じてごらん』というタイトルにふさわしい、かわいらしいイラストのカバーで、また文中には多数の漫画が配されています。これは、ますいゆうこさんがお書きになったものです。ますいさんは京都市立芸術大学陶芸科と中央仏教学院卒業され、現在、龍谷大学大学院(真宗学)1回生です。また、真宗カウンセリング・表現アートセラピーを学び、華光会館(浄土真宗)で相談活動中。8才・4才児の母。華光会の機関紙「華光誌」にて、仏教4コママンガ連載中。広島出身、京都在住。
著書:『仏さまのプレゼント』(絵本)、『Buddha touches my heart everyday.』(画集)、『いますぐ考えるのをやめて。ただ感じて。それがここちよいのか、わるいのか。』(画集)仏教4コママンガ「凡子」(いずれも華光会刊)。
ますいさんのホームページ yukomasui.com をどうぞご覧になってください。多彩なイラストとともに、いろいろな活動が紹介がされています。

フォーカシングは多方面への応用が期待されていますが、「こころの天気の描画」と組み合わさって、主に学校現場での普及のきっかけになるのではないかと予想されます。

なお、昨年11月以降刊行したものは、以下の通りです。

『クリシュナムルティの生と死』(発行日:2007年11月17日)
『パーソンセンタード・アプローチの最前線――PCA諸派のめざすもの』(発行日:2007年12月5日)
『仏教のまなざし――仏教から見た生死の問題』(発行日:2008年3月17日)
『これが私の真実なんだ――麻薬に関わった人たちのエンカウンター・グループ』(発行日:2008年3月26日)
『変化への挑戦――クリシュナムルティの生涯と教え』(発行日:2008年5月24日)
『気功革命〔秘伝伝授編〕巻の一 気を知る』(発行日:2008年6月10日)
『ミドル・パッセージ――生きる意味の再発見』(発行日:2008年6月28日)
『新しい精神世界を求めて――ドペシュワルカールの「クリシュナムルティ論」を読む』(発行日:2008年7月28日)

これらについては小社の新刊/既刊案内の他、アマゾンの「なか見!検索」をご覧になってください。より詳しい内容をご覧いただけます。なお、『変化への挑戦』と『気功革命〔秘伝伝授編〕』は小社では初の「DVDブック」です。特にクリシュナムルティの場合は、一般向けに初めて映像を紹介したもので、彼の講話中の表情や声に直接触れることができるので、ぜひご覧になってください。また、気功の本も、直接著者の盛先生に教えてもらっているような臨場感がありますので、こちらも気功に関心があるが遠隔地にいらっしゃったり、忙しかったりで直接教えてもらう機会がないような方々にぜひご覧いただければと思います。

最後に今後の刊行予定をお知らせしておきます。

『グルジェフ・ワークの実際――性格に対するスピリチュアル・アプローチ』(セリム・エセル著/小林真行訳)[11月頃刊行予定]

著者セリム・エセルは、フランス北東部アルザス地方在住。G・I・グルジェフや P・D・ウスペンスキーの教えを始めとして、仏教やキリスト教、ヒンドゥー教やスーフィー等の精神的伝統、並びに現代心理学の成果を総合した実践的な叡智の探求を目指す心理人類学スクール(Ecole de Psycho-Anthropologie)を主宰。各国からの聴衆に対し、現代という時代の要求に沿った具体的な方法論を展開し、日常生活におけるスピリチュアリティの普及に努めている。本書の他、「Les 17 Traits du caractere」、「Une Ecole de Sagesse de G.I. Gurdjieff a Selim Aissel」等、多数の著書がある。
訳者の小林真行さんは1972年、長野県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。出版社勤務を経て、カリフォルニア統合学研究所(CIIS)東西心理学科修士課程終了。現在、日本トランスパーソナル学会常任理事。原書はフランス語で、その英訳を小林さんがわかりやすい日本語に訳してくれました。

実は、昨年初春、この本の出版社 Editions EccEの担当者から突然電話があり、出版企画を持ち込まれたのがきっかけで、邦訳刊行が実現することになったものです。直接の電話でのコンタクトというのは今までなかったので一瞬躊躇しましたが、小社のホームページを見てグルジェフ/ウスペンスキー関係書が出ているので興味をもったとのことで、その後のやりとりも極めて紳士的で、好感がもてるものでしたので、お引き受けすることにしました。
グルジェフ・ワークというのは実際にどんなものなのかを初めてまとまった形で紹介した非常に貴重な本だと思います。
これまで『グルジェフから40年――ワーク実践のためのガイド』(ジョン・フックス著/浅井雅司ほか訳)という144ページの本がアトリエHBから2002年に出ており、次のようなカスタマー・レビューが出ています。

グルジェフ・ファウンデーションでワークしていた人物のメモ形式の覚書。
グルジェフ・グループというのは、活動がまったく見えてこないものであるので、こういった著作は参考になる。ワークグループとその思想、活動についての情報は圧倒的に伏せられており、学ぶ意思のあるものにとってさえ、知る権利は考慮されていないとまで言われているが、このような著作が出ることは異例なのだろう。
グルジェフ直系の系統ということでのみ、そのワークの指導の確かさや意識のレベルを知ること、見せ掛けか真実かを見分けること、などは不可能な状態にまでなってきている。そういったなかでのこの実践のためのガイドは参考になるだう。

何やら非常に秘密主義的な感じですが、今回のエセルのワークは非常に「オープン」で、しかもグルジェフの思想だけではなく、様々な思想が組み込まれています。
 わたしたちは、いかにして自らを知り、性格という囚われから自由になることができるのでしょう? 本書は、五つの主要な性格を手掛かりにして、身近な題材に基づく事例を多数挙げながら、グルジェフ・ワークの要点を分かり易く解き明かしたものです。この「身近な題材に基づく事例を多数挙げ」ているというのが本書の際立った特徴でしょう。まさに「日常生活を道場にする」という考えに貫かれているのです。
『こころの天気を感じてごらん』の中の「円座禅――フォーカシングと洞察話法のトレーニングのために――」という章の最後で、土江さんは次のように述べています。エセルの考えと共通点をもっているのでご紹介させていただきます。

円座禅も出会いの場です。しかし人生にはもっと大事な出会いがあります。それは家庭をはじめとする身近な人間関係という出会いです。私は二十五歳の時インドに渡り、ヨーガの師(グル)に巡り会い、その家の十二番目の家族として迎え入れられ半年間過ごしたのですが、日本への帰り際にグルがこう語ってくれました。
「息子よ。ヨーガの修行は山や森に入って孤独に行うものではない。本当の修行は家庭の中にある。」
私はこの言葉の真実性を疑ったことがありません。この言葉に巡り会うための渡印だったのだ改めて思い返すことができます。
円座禅が森や山に入ることに相当することだとすると、それは身近な人間関係という最高の出会いの場に帰るための準備にすぎません。どうか円座禅で培った洞察の力を、身近な人たちへの洞察的理解とそれに基づく洞察的世話として結実させていただきたいと願ってやみません。

  他に刊行準備中のものは以下のとおりです。

『大地の心理学――こころある道を生きるアウェネス』(仮題)
これはアーノルド・ミンデルの最新作です。

『回想のクリシュナムルティ』(仮題)
これは、クリシュナムルティ生誕100年を記念して刊行された Krishnamurti: 100 Years の邦訳です。著者のイーブリン・ブロー女史がクリシュナムルティにゆかりのある多くの人々を訪ねて行なったインタビューに基づいたもので、様々な回想録をまとめた非常に珍しいものです。今まで紹介されなかったクリシュナムルティの様々な交友録や逸話が満載されています。厚い本なので、2巻で出す予定です。

また、『数の神話――永遠の円環を巡る英雄の旅』(梅本龍夫著)というきわめて雄渾な内容の大著(追って詳しく紹介)も準備中です。

最後に、片山賢さんという方が体系化した「中庸姿勢法」についての入門書も現在企画中です。
片山さんのプロフィール:1956年福岡県生まれ。兄、母、父を病気でたて続けに失い、人生を少々反省。以後、自然律を師匠とあおぐ日々。整形外科および内科にリハビリ専任者として十数年勤務。 1992年度世界自転車選手権日本ナショナルチーム・オフィシャルトレーナー。
この間、病人・オリンピック選手・プロスポーツ選手など、延べ20万人をこえる人々の姿勢を研究。その結果、それまでの通説に反して、人の無意識なるしぐさや動きぐせが、姿勢を自動的に整列し、健康維持に多大な貢献を果たしていることを確認・実証。これを「くつろぎ反応」と名づけ、子供から高齢者まで誰でも一人でできる姿整体操『中庸姿勢法[CHUYO SHISEI METHOD]』として体系化。 1997年より、長崎県東彼杵郡川棚町という小さな町から、国内外に向けて発信中。
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