コラム〜編集日記〜

第27回


いかがお過ごしでしょうか? やはり12月になるとこれまでの疲れがいろいろな形でじわじわ出て来るので、風邪も引きやすくなるのではないかと思います。読者の皆様もどうか御自愛ください。


さて、前回に予告した『自己変容から世界変容へ--プロセスワークによる地域変革の試み』(ギャリー・ライス著/田所真生子訳/諸富祥彦監訳・解説)は、おかげさまで12月1日に刊行されました。アーノルド・ミンデルによって創始されたプロセス指向心理学を踏まえての地域変革実践の記録ですが、また本書は、プロセスワークの創始者であるアーノルド・ミンデルと彼のパートナー、エイミー・ミンデル両氏以外のプロセスワーカーによる著作の初の邦訳でもあります。本書の意義について、監訳・解説者の諸富祥彦明治大学助教授は次のように述べています。


「私が変われば、世界が変わる」と考えるのは楽観的にすぎるとしても、単なる制度改革にとどまらない、一人一人が自分の中の何かを押し殺さなくても生きていけるよりよい社会を作っていくためにはまず、「自分のすべての部分を大切にできる私」に、「私が変わる」ことが、すなわち意識変容が必要なことは間違いないでしょう。


そのように考えると、意識変容のプロであるはずのサイコセラピストの仕事は、もはやカウンセリングルームに籠もって病者の治療に取り組むにとどまらなくなります。社会と世界の変容のための特別な任務を負うていることになるのです。


したがって、著者は言います。「セラピストは社会変容を促進する特別な立場にいます。……私はセラピストたちに特別なアピールをしたいと思います。あなたの近くの小さな町に出かけて人々と会うことから始めましょう」と。


地域の問題に関心のあるすべての心理臨床家やカウンセラー、そして、単なるシステムの変換にとどまらない、人間の生き方の深い変容を伴う社会や世界の真の変容に関心があるすべての人に、本書をお読みいただければ幸いです。 きっと、「世界は、なお、絶望するには早すぎる」と思いを新たにされることでしょう。


ところで、9月に刊行した『未来を開く教育者たち:シュタイナー・クリシュナムルティ・モンテッソーリ…』についての書評が12月4日の朝日新聞に掲載されました。評者は作家の天外伺朗さんで、編者が事務局の手伝いをしている日本トランスパーソナル学会の顧問をしておられるので、逆にこちらのニュースレターに天外さんの本を紹介させていただくなど交流させていただいています。周知のように、ロボット犬アイボの発明者としても有名です。その天外さんがしてくれた懇切な書評をそのまま以下にご紹介いたします。


医療の世界で、代替医療が注目されてきたのと同様に、教育の世界でも文科省教育以外の代替教育の重要性が高まっている。その代表格がシュタイナーやモンテッソーリだろう。


本書はその2人に加えクリシュナムルティやベイリーなどの教育改革者、ならびにユネスコの設立などの背後に「神智学」の思想があったと説き、それらの経緯を詳しく追っている。


神智学は、あらゆる宗教を包含する真理と、著者らは紹介している。そのため上記代替教育は霊性や精神面の成長に重点がおかれ、年齢に即した意志や情感の発達に配慮されている。


知育偏重で、激しい競走状態に子どもたちを追い込む文科省教育に対する反動から、上記代替教育が評価されているが、反面、神智学のもつオカルト的な宗教性に反発する人も多い。


教育に宗教性は必要か。必要だとするとどういう形であるべきか。今後の教育のあり方を考える上で欠かせない1册だ。


朝日新聞で小社のような零細出版社の刊行物を紹介してくれるのは滅多にないことですので、感謝の念を込めて紹介させていただきました。


今後の予定としては、前回も触れた"Meeting Life: Writings and Talks on Finding Your Path without Retreating from Society"(邦題未定)の翻訳が進行中(大野龍一さん)で、来年2-3月ごろの刊行をめざしています。伝記『目覚めの時代』『実践の時代』の著者メアリー・ルティエンスが編集した本です。内容はほぼこれまで未紹介のものばかりで、非常に資料価値の高いものです。


また、突然なのですが、『“則天去私”という生き方--心理学からスピリチュアリズムヘ』という本を来年1月11日に緊急出版することにしました。著者は、現在明治大学文学部心理社会学科教授をしておられる三沢直子さんです。


これまで約30年間、精神病院、神経科クリニック、企業の総合病院神経科などにおいて、心理療法、心理検査を担当。母親相談や母親講座をはじめとする子育て支援活動、保育士・児童館職員・教師など、子どもに関わる人々の研修などを行ってこられた方です。


主な著書:『新版 お母さんのカウンセリング・ルーム “家庭で子育て”から“地域・社会での子育て”へ』(ひとなる書房)、『殺意をえがく子どもたち 大人への警告』(学陽書房)、『描画テストに表れた子どもの心の危機-S-HTPにおける1981年と1997-99年の比較』(誠信書房)


この三沢先生がなぜスピリチュアルズムへと関心対象を一転されたのか? その経緯が子育て支援での様々な体験を軸に感動的に述べられています。そして本題のスピリチュアリズムについてきわめてわかりやすく力強い筆致でまとめてあり、優れた入門書にもなっています。


本書について、同じ明治大学文学部で教鞭をとっておられる諸富祥彦助教授は次のような献辞を送ってくださいました。


母親からの愛を得られず苦しむ人々に著者は言う。


「親や運命を恨んでばかりではいけない。今生での課題にしっかり向き合うならば、必ず天の助けがはたらく。見えないスピリットたちもあなたを応援してくれている」と。


本書は、日々を真摯に生きる女性心理カウンセラーが「なぜ私は、こんなつらい仕事を続けなくてはならないのか」と苦しみ続けた末に、霊的な真理に目覚めていったプロセスを語ったものである。


本書は、今まさに現代日本だけでなく世界が向かうべき方向を示してくれており、三沢先生は、時代が急務としているものに応え、それらの方向へと大きなうねりとなっていくべき動きの通路としての役を担われ始めたかのようです。


2005年12月8日

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